ある日突然、夫や妻から離婚したいと言われ、それから食事がのどを通らなくなっていませんか。お腹は空いているはずなのに、箸を持つと手が止まってしまう。口に入れても味がせず、飲み込むことさえつらい。そんな状態のまま、この記事にたどり着いた方も多いと思います。
これは、夫から言われた妻だけに起こることではありません。妻から離婚を切り出された夫も、同じように食べられなくなり、仕事中も何も手につかなくなることがよくあります。
はじめにお伝えしておきます。離婚したいと言われて食欲がなくなるのは、あなたが弱いからではありません。大きなショックを受けたときに、心と体が見せるごく自然な反応です。
私は20年以上、夫婦関係の修復に携わり、1万組を超える夫婦のサポートをしてきました。その中で、離婚を切り出された直後に食べられなくなった方とも、たくさん出会ってきました。そして、そこから夫婦関係を取り戻していった方も、数多く見てきました。
この記事では、まず今のつらい体を少しでも楽にする方法をお伝えします。そのうえで、体を整えることがなぜ夫婦関係の修復につながるのか、相手の協力がなくても一人で始められる方法までお話しします。
- 離婚したいと言われて食欲がなくなる理由
- 食べられないときに今日からできる対処法
- 病院や相談窓口を頼ったほうがいいサイン
- 体を整えることから始める夫婦関係修復の進め方
今は、全部を一度に読もうとしなくて大丈夫です。つらいときは、気になるところだけ拾い読みしてください。
1. 離婚したいと言われて食欲がないのは心と体の自然な反応■■■
離婚したいと言われて食欲がなくなるのは、強いストレスに対する体の自然な反応です。多くの場合、心が少しずつ落ち着くにつれて、食欲も戻っていきます。まずは、なぜ食欲がなくなるのか、その仕組みから見ていきます。
1-1. 離婚の言葉が食欲を奪ってしまう理由■■
離婚したいと言われて食欲がなくなるのは、強いショックで体が危険に備える状態になり、胃や腸の働きが後回しになるからです。心臓がドキドキし、体がこわばるのもそのためで、食べ物を見ても食べたいと思えないのは、体が今は食べている場合ではないと判断しているからです。
厚生労働省のサイト「こころの耳」でも、ストレスが高まったりたまったりすると、胃腸の不調や睡眠の乱れといった体の変化があらわれることが紹介されています。食欲や体重の変化も、自分で気づける不調のサインの一つとされています。
さらに、大きな出来事を短い期間に続けて経験すると、自分でも気づかないうちにストレスが高まることがあるとも説明されています。離婚したいという言葉は、まさにその大きな出来事にあたります。
なぜなら、その一言には、たくさんの不安が一度に詰まっているからです。相手の気持ちはもう戻らないのか、子どもはどうなるのか、これからの生活はどうなるのか。頭の中でいくつもの心配が同時に動き出し、心も体も休む暇がなくなってしまいます。
カウンセリングの現場でも、家族の夕飯は作れても自分は一口も食べられなかった、という妻の声をよく聞きます。夫の場合も、昼食に手がつかず、仕事中も妻の言葉ばかり思い出してしまうというお話は少なくありません。それだけ夫婦という関係が、生活と心の土台になっていたということです。
1-2. 食べられない自分を責めなくていい理由■■
食欲がなくなる仕組みが分かっても、多くの方はそれでも自分を責めてしまいます。しっかりしなきゃいけないのに、子どものためにも食べなきゃいけないのに、どうして自分はこうなんだろう、と。
ですが、自分を責める気持ちは、それ自体が新しいストレスになります。食べられないことを責めると、心はさらに緊張し、ますます食べられなくなる。この悪い流れに入ってしまう方は少なくありません。
食べられないのは、それだけ夫婦関係を大切に思ってきた証でもあります。どうでもいい相手の言葉なら、ここまで体が反応することはありません。今のあなたの反応は、壊れたのではなく、大切なものを守ろうとしている心の動きなのです。
自分を責める言葉が浮かんだときは、言いかえる練習をしてみてください。食べられない私はダメだ、ではなく、今は大きなショックを受けているから食べられなくて当然だ、と心の中でつぶやくだけで大丈夫です。
私がこの点を大切にしているのには理由があります。自分を責め続けている人ほど、相手にすがったり、責めたりする行動に出やすいからです。自分を責めるのをやめることは、のちほどお話しする夫婦関係の修復にとっても、大切な準備になります。
1-3. 食欲がない状態はいつまで続くのか■■
食欲がない状態がどのくらい続くかは、人によって違います。ひとつの目安として、10日から2週間以上続くなら心の不調のサインの可能性があります。ただし、水分もとれない、ふらついて立っていられないといった場合は、日数に関係なく早めの受診が必要です。
10日から2週間という目安は、厚生労働省の「こころの耳」で紹介されているものです。あくまで心の不調に気づくための目安であり、それまで受診を待つべき期間ではありません。受診の目安は3章で詳しくお伝えします。
実際には、ショックが少しずつ落ち着き、これからのことが見えてくるにつれて、自然と食欲が戻ってくる方も多くいます。一方で、相手の冷たい態度が続いたり、話し合いのたびに傷ついたりすると、不調が長引くこともあります。
そして大切なのは、食欲が戻るまでの時間は、ただ待つだけでなく、過ごし方でも変わるということです。体に少しずつ栄養と休息を届けることで、心も落ち着きを取り戻しやすくなります。
2. 食欲がないときに今日からできる6つの対処法■■■
ここからは、食欲がないときに今日からできる対処法を6つお伝えします。どれも特別な道具や知識はいりません。全部やろうとせず、できそうなものを1つ選ぶだけでも十分です。
- ひと口で食べられるものから試す
- 水分だけはこまめにとる
- 眠れなくても体を横にして休む
- お酒やカフェインに頼らない
- 家事や育児は手を抜いていいと決める
- 少しでも食べられた自分を認める
それでは、それぞれの対処法について詳しく見ていきます。
2-1. ひと口で食べられるものから試す■■
まず意識してほしいのは、ちゃんとした食事をとろうとしないことです。食欲がないときに、ご飯とおかずがそろったお皿を見ると、それだけで気持ちが重くなってしまいます。
おすすめは、ひと口で食べられて、のどを通りやすいものです。今の自分の状態に合わせて、次の中から選んでみてください。
| ▼今の状態に合わせた食べやすいものの例 | |
| 今の状態 | 試しやすいもの |
|---|---|
| のどを通らない | ・ゼリー飲料 ・プリン ・ヨーグルト ・ポタージュスープ |
| 少し吐き気がある | ・冷たいゼリー ・果物 ・クラッカー ・薄味のスープ |
| 料理する気力がない | ・小さめのおにぎり ・カップスープ ・レトルトのおかゆ ・バナナ |
食べる時間にもこだわらなくて大丈夫です。朝昼晩の決まった時間に食べようとするより、少しでも食べられそうだと感じたときに、ひと口だけ口に入れるほうが体への負担は少なくなります。すぐ手に取れる場所に置いておくのもよい方法です。
よくある失敗は、栄養のことを気にして無理に食べ、気持ち悪くなってしまうことです。一度つらい思いをすると、食べること自体がこわくなってしまいます。栄養のバランスは、体調が戻ってから考えれば十分です。
例えば、家族の夕飯を用意したついでに、小さなお皿に自分の分をほんの少しだけ取り分けてみる。食べきれなくても、ひと口でも口に入れられたら、それで今日は合格です。
2-2. 水分だけはこまめにとる■■
次に、食べられないときでも、水分だけはこまめにとるようにしてください。私たちはふだん、食事からもたくさんの水分をとっています。食べられない日が続くと、知らないうちに体の水分まで足りなくなってしまうのです。
体の水分が足りなくなると、だるさや頭痛、立ちくらみが起こりやすくなります。その体のつらさが気持ちの落ち込みにつながり、さらに食欲がなくなるという流れも生まれます。
一度にたくさん飲む必要はありません。常温の水や麦茶、温かいスープなどを、ひと口ずつ何度かに分けて飲むだけで大丈夫です。スープなら水分と一緒に少しの栄養もとれるので、食事の代わりにもなります。
枕元やリビングのテーブルなど、目につく場所に飲み物を置いておくと、飲み忘れを防げます。何かを飲もうと意識するより、気づいたら手が届く状態にしておくほうが続けやすいものです。
なお、水分も受けつけない、飲んでもすぐに吐いてしまうという場合は、自分で何とかしようとせず、早めに医療機関に相談してください。
2-3. 眠れなくても体を横にして休む■■
続いて大切なのが、休むことです。食欲と睡眠は深くつながっていて、眠れない日が続くと、体が疲れきってますます食べられなくなってしまいます。
とはいえ、離婚したいと言われた直後は、布団に入っても相手の言葉が頭の中で何度もくり返され、なかなか眠れないものです。そんなときは、無理に眠ろうとしなくて大丈夫です。目を閉じて体を横にしているだけでも、体はある程度休まります。
気をつけてほしいのは、夜中にスマホで離婚について調べ続けたり、相手のSNSやLINEを何度も見返したりすることです。画面の光や不安な情報が、心と体をさらに興奮させてしまいます。夜は、つらい情報から少し距離を置く時間にしてください。
また、昼間に少しだけ外の光を浴びたり、近所を数分歩いたりするのもおすすめです。体を軽く動かすことで、夜に体が休む準備をしやすくなります。
2-4. お酒やカフェインに頼らない■■
眠れないつらさや不安を忘れたくて、お酒に手が伸びる方もいます。また、食べていないのに仕事や家事をこなすため、コーヒーや栄養ドリンクで何とか体を動かしている方もいるかもしれません。
ですが、お酒は寝つきをよくするように感じても、眠りを浅くし、夜中に目が覚めやすくなります。食べていない胃にお酒が入ると、胃も荒れやすくなります。カフェインも胃を刺激し、眠りのじゃまをしてしまいます。
気持ちを落ち着けたいときは、白湯やカフェインの入っていない麦茶、温かい牛乳などを選んでみてください。温かい飲み物は、それだけで体の緊張をゆるめる助けになります。
さらに、お酒には夫婦関係の面でも大きな落とし穴があります。例えば、妻に離婚を切り出された夫が、眠るために毎晩お酒を飲み、酔った勢いで妻に長いLINEを送ってしまう。ふだんなら言わない言葉が出てしまい、妻の気持ちがさらに離れてしまうことは珍しくありません。
2-5. 家事や育児は手を抜いていいと決める■■
体を回復させるためには、毎日の負担を減らすことも欠かせません。食べられず眠れない体で、いつも通りに家事や育児、仕事をこなそうとすると、それだけで残りの力を使いきってしまいます。
そこで、今の時期は手を抜いていいと、自分で決めてしまってください。夕飯は総菜や冷凍食品に頼る、洗濯物はたたまずにかごへ入れたままにする、掃除は気になる場所だけにする。それだけでも、体と心に少し余裕が生まれます。
子どもがいる家庭では、手を抜くことに罪悪感を持つ方も多いと思います。ですが、子どもにとって大切なのは、手作りの料理よりも、親が少しでも穏やかでいてくれることです。例えば、こんなふうに声をかけてみてください。
「今日はお惣菜パーティーにしよう。好きなの選んでいいよ」
仕事も、急ぎでないものは後回しにする、締め切りを少し延ばしてもらうなど、できる範囲で調整して大丈夫です。よくある失敗は、何事もなかったように完璧にふるまおうとして、ある日突然動けなくなってしまうことです。今は踏ん張る時期ではなく、回復を優先する時期だと考えてください。
2-6. 少しでも食べられた自分を認める■■
最後にお伝えしたいのは、少しでも食べられた自分を、自分でしっかり認めることです。体調の回復は、目に見えにくい小さな変化の積み重ねです。その小さな変化に気づけないと、何も良くなっていないと感じてしまいます。
おすすめは、寝る前に今日口に入れたものを1つだけ思い出すことです。ゼリーを半分食べられた、スープを数口飲めた。それを心の中で、よくやったねと認めてあげてください。スマホのメモに書き残しておくのもよい方法です。
これは気休めではありません。自分で自分を認める習慣は、相手の言葉や態度に振り回されにくい心を育てていきます。夫婦関係が揺れているときほど、相手からの評価だけで自分の価値を決めてしまいがちだからです。
例えば、相手に冷たい態度をとられた日でも、今日はおかゆを食べられたと自分を認められれば、心が完全に折れることはありません。自分を支える力を取り戻すことは、夫婦関係を修復するための土台になります。
3. この状態なら我慢せずに病院や相談窓口へ■■■
食欲以外の不調が重なっているとき、体に強い症状があるとき、つらさが長引いているときは、自分の工夫だけで乗りきろうとせず、専門家の力を借りてください。この章では、受診や相談を考える目安と、その相談先をお伝えします。
3-1. 食欲以外にも確かめたい心と体のサイン■■
食欲がないときは、睡眠や気分、体の調子など、ほかのサインも一緒に確かめることが大切です。いくつかのサインが重なっていたり、つらさが強かったり長引いたりしている場合は、専門家に相談するタイミングだと考えてください。
その理由は、心の不調が、心よりも先に体にあらわれることがあるからです。厚生労働省の「e-ヘルスネット」でも、うつ病には気分の落ち込みだけでなく、食欲の低下や眠れない、だるいといった体の症状があると説明されています。
そして、体の症状が目立つぶん、本人が心の不調に気づきにくい場合があるとも紹介されています。食欲がないのは体の問題だと思っていたら、実は心がかなり疲れていた、ということもあるのです。
確かめたいサインの例として、厚生労働省の「こころの耳」では、寝つきが悪い、夜中に目が覚める、不安や焦りが続く、頭痛や吐き気、下痢や便秘が続く、疲れがとれないといった自覚症状があげられています。
ただし、食欲がないというだけで、自分は病気だと決めつける必要はありません。離婚を切り出されたショックで一時的に食べられなくなるのは、多くの方に起こり得ることです。自分の状態を知ることは、こわいことではなく、自分を守るための一歩です。
3-2. 早めに受診したほうがいい状態■■
次に、日数にかかわらず、早めに医療機関を頼ってほしい状態をお伝えします。次のうち一つでも当てはまる場合は、体そのものが弱ってしまっている可能性があります。
- 水分もほとんどとれない
- 食べても吐いてしまう
- 体重が目に見えて減った
- ふらつきや強いだるさで起き上がれない
それでは、それぞれの状態について見ていきます。
水分もほとんどとれない
食べられなくても、水分がとれていれば体はある程度持ちこたえられます。しかし、水分まで受けつけない状態が続くと、体の水分が足りなくなり、一気に弱ってしまうおそれがあります。水分もとれない状態は早めに受診してください。
食べても吐いてしまう
少し口にできても、すぐに吐いてしまう場合は、栄養も水分も体に残りません。体を守るためにも、早めに診てもらうことが大切です。
体重が目に見えて減った
服がゆるくなった、まわりからやせたと言われるなど、短い間に体重が減っている場合も注意が必要です。体の蓄えが少なくなっているサインなので、我慢せずに相談してください。
ふらつきや強いだるさで起き上がれない
立ち上がるとふらつく、だるさで布団から出られないといった状態は、体が限界に近づいている合図です。転んでけがをする危険もあるため、無理に動かず医療機関を頼ってください。
これらの状態のときは、まず内科やかかりつけ医に相談するのが安心です。食欲がない原因が離婚のストレスだけとは限らず、胃や腸など体の病気が隠れていることもあります。だからこそ、自分で決めつけずに一度きちんと診てもらうことに意味があります。
また、気分の落ち込みや不安が強く、仕事や家事、育児がほとんど手につかないときは、心療内科や精神科に相談する方法もあります。診察では、家庭の事情をくわしく話さなくても大丈夫です。例えば、次のように伝えるだけでも十分に伝わります。
「家庭のことで大きなショックがあって、それからほとんど食べられず、夜も眠れていません」
病院に行くほどではないと我慢してしまう方は多いのですが、受診は決して弱さではありません。
3-3. 一人で抱え込まないための相談先■■
夫婦の問題は、親や友人には心配をかけたくない、恥ずかしくて言えないと感じやすいものです。誰にも話せないときは、厚生労働省が案内している電話やSNSの公的な相談窓口を使えます。
顔を知らない相手だからこそ、話せることもあります。厚生労働省の相談先一覧では、電話だけでなく、LINEなどのSNSで相談できる窓口も紹介されています。悩みの種類や住んでいる地域から、自分に合う相談先を探せるサイトも案内されています。
もし今、消えてしまいたい、生きることに疲れたという気持ちが少しでもあるなら、一人で抱えず、今すぐ相談してください。厚生労働省が案内している窓口には、次のようなものがあります。
| ▼つらい気持ちを相談できる主な窓口 | ||
| 窓口 | 電話番号 | 受付時間 |
|---|---|---|
| #いのちSOS | 0120-061-338 | 24時間365日 |
| よりそいホットライン | 0120-279-338 | 24時間 |
どちらの窓口も、今の状況を一緒に整理し、必要な支えを考えてくれる場所です。うまく話せなくても、今つらいということだけ伝えれば大丈夫です。
つらい気持ちは、言葉にして誰かに聞いてもらうだけで、少し軽くなることがあります。頭の中にあった不安が整理され、体の緊張がゆるむこともあります。なお、夫婦関係そのものの相談先については、6章で改めてお伝えします。
4. 弱ったまま動くと夫婦関係が遠ざかる理由■■■
心と体を守ることは、夫婦関係をあきらめることではありません。むしろ、関係を取り戻すために欠かせない準備です。ここからは、いよいよ夫婦関係そのものの話に入ります。
離婚したいと言われると、一日でも早く何とかしなければと焦るものです。ですが、心と体が弱ったまま動くと、かえって相手の気持ちを遠ざけてしまうことが少なくありません。この章では、その理由と、今は何をしないほうがいいのかをお伝えします。
4-1. 心が弱っているときにやりがちな4つの行動■■
食べられず、眠れない状態が続くと、人は冷静な判断がしにくくなります。その結果、本当は関係を取り戻したいのに、逆の結果を招く行動をとってしまいがちです。カウンセリングの現場でも、次の4つの行動はとくによく見られます。
- 泣いてすがって気持ちを確かめ続ける
- 相手を責めて言い返す
- 食べられないことを相手に訴える
- その場で答えを出そうとする
それでは、それぞれの行動について詳しく見ていきます。
泣いてすがって気持ちを確かめ続ける
不安が強いと、相手の本当の気持ちを何度も確かめたくなります。本当に離婚したいの、もう好きじゃないの、と聞き続けてしまうのです。
ですが、離婚を口にした側は、すでに気持ちが重くなっている状態です。何度も問いつめられると、話すたびに苦しくなり、やはり一緒にいるのはつらいという思いを強めてしまいます。確かめたい気持ちが浮かんだら、まずは自分の不安を書き出して、相手にぶつける前に一度受け止めてみてください。
相手を責めて言い返す
突然の言葉に傷つき、怒りがわいてくるのは自然なことです。そっちだって悪いところがあったでしょ、と言い返したくなる方も多いと思います。
しかし、責める言葉は、相手の離婚したい理由を裏づけてしまいます。やっぱり話し合っても責められるだけだ、と相手が感じると、心の扉はさらに固く閉じてしまいます。怒りは否定せず、相手ではなく、信頼できる第三者に聞いてもらう形で外に出すことが大切です。
食べられないことを相手に訴える
食べられないつらさを分かってほしくて、あなたのせいで何も食べられない、と相手に訴えてしまう方もいます。心配してもらえれば、気持ちが戻るかもしれないと期待してしまうのです。
ですが、離婚を考えている相手にとって、その言葉は重い責任を背負わされるように感じられます。申し訳なさよりも息苦しさが勝り、早く離れたいという気持ちを強めてしまうことが多いのです。
食べられないことを隠す必要はありません。ただ、聞かれたときは、次のように短く伝えるだけで十分です。
「ちょっと食欲が落ちてるけど、自分で何とかするから大丈夫」
その場で答えを出そうとする
宙ぶらりんの状態がつらくて、今すぐ白黒をつけたくなることもあります。分かった、もう離婚でいい、と投げやりに答えてしまったり、逆に絶対に離婚しないと強く言い張ったりするのです。
弱っているときに出した答えは、多くの場合、本当の気持ちとはずれています。勢いで出た言葉は取り消しにくく、後から自分を苦しめます。大切な決断ほど、心と体が落ち着いてからにしてください。この点については、次の小見出しでくわしくお伝えします。
4-2. 離婚の返事を急がなくていい理由■■
離婚したいと言われると、すぐに返事をしなければいけないような気持ちになります。ですが、相手が離婚を口にしただけで、離婚が決まるわけではありません。
日本で多い協議離婚は、夫婦二人が合意して、離婚届を出すことで成立します。話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所での調停などに進むのが一般的です。つまり、あなたが今すぐ答えを出さなくても、ある日突然離婚が成立してしまうことはありません。
返事を待ってもらうことは、逃げることでも、相手を拒むことでもありません。お互いが落ち着いて考えるための時間をつくることです。保留するときは、相手の気持ちを否定せず、正直に伝えるのがおすすめです。
「話してくれてありがとう。正直すごくショックで、今はすぐに答えが出せない。ちゃんと考えたいから、少し時間がほしい」
時間をもらったら、体が少し落ち着いたころに、離婚したいと思った理由を一度だけ聞いてみてください。理由が分かれば、自分が変えていける部分が見えてきます。何度も聞くと問いつめになるので、一度だけにするのがポイントです。
「責めるつもりはないんだけど、どうしてそう思ったのか、聞かせてもらえる?」
相手が話してくれたら、反論や言い訳はせず、最後まで聞くことに集中してください。たとえ納得できない内容でも、そう感じていたんだね、と受け止めるだけで、相手の身構えはやわらぎます。なお、財産や親権など法律の具体的な判断が必要な場合は、弁護士に相談してください。
4-3. 勝手に離婚届を出されるのが心配なときの対処法■■
勝手に離婚届を出されるのが心配なときは、その場で署名しないことと、必要に応じて不受理申出という制度を使うことの2つで対応できます。そうした不安が強いと、それだけで夜も眠れなくなってしまうため、早めに知っておくと安心です。
まず大切なのは、どれだけ迫られても、その場で離婚届に署名しないことです。弱っているときに勢いで書いてしまうと、取り返しがつかなくなるおそれがあります。
そのうえで役立つのが、法務省が案内している離婚届の不受理申出という制度です。これは、本人の意思にもとづかない届出が受理されるのを防ぐためのしくみで、協議離婚の届出もその対象になります。
申出は、本籍地か住んでいる地域の市区町村役場で行い、原則として本人が窓口に行きます。手数料はかからず、申出をした本人が取り下げない限り効力が続きます。
ただし、この制度は誰もが必ず使うべきものではありません。相手が勝手に届けを出しそうで心配な場合に、自分の心を守るための手段として考えてください。申出をしたことを相手にわざわざ伝えて、対立を深める必要もありません。
勝手に離婚が決まることはないと分かるだけでも、心には少し余裕が生まれます。
5. 体を整えることが夫婦関係修復の第一歩になる■■■
ここまで、弱ったまま動くことの危うさと、急がなくていい理由をお伝えしてきました。では、関係を取り戻すために、何から始めればよいのでしょうか。私の答えは、まず自分の体と心を整えることです。この章では、その理由と具体的な進め方をお伝えします。
5-1. 体調が戻ると表情と言葉が変わり相手の見方も変わる■■
体を整えることが、なぜ夫婦関係の修復につながるのか。それは、体調が戻ると、表情や声、言葉づかいが自然と変わるからです。
食べられず眠れない日が続くと、顔色が悪くなり、表情もこわばります。声には余裕がなくなり、ちょっとした一言にも不安や責める気持ちがにじみやすくなります。離婚を考えている相手は、そうした様子を思っている以上によく見ています。
一方で、少しずつ食べられるようになり、眠れるようになると、表情がやわらぎます。相手の言葉に振り回されにくくなり、落ち着いて受け答えができるようになります。この変化は、言葉で説明するよりもはるかに強く相手に伝わります。
例えば、以前は相手が帰ってくるたびに不安そうな顔で話しかけていた方が、普通の声で次のように声をかけられるようになったとします。
「おかえり。ご飯、冷蔵庫に入れてあるからね」
それだけのことでも、相手は、前より話しやすいかもしれないと感じ始めます。相手の気持ちを変えようとするより先に、自分が整うこと。夫婦の関係は、どちらか一方の変化から少しずつ動き出すものだと、私は長年の経験から確信しています。
5-2. 相手の協力がなくても一人で始められる修復の4ステップ■■
それでは、具体的にどう進めていけばよいのでしょうか。夫婦関係の修復は、相手の協力がなくても一人から始められます。ここでは、そのための4つのステップをお伝えします。
- まず体と生活のリズムを整える
- 相手を責めずに自分の言動を振り返る
- 穏やかな日常のやりとりを積み重ねる
- 自分の人生を少しずつ取り戻す
夫婦関係の修復には、少なくとも1年ほどかかると考えてください。4つのステップは順番に一つずつ終わらせるものではなく、時期によって中心になるものが変わっていきます。その流れを、次の表にまとめました。
| ▼一人で始める夫婦関係修復の進み方の目安 | ||
| 時期の目安 | 中心に取り組むこと | この時期にやらないこと |
|---|---|---|
| 最初の数か月 | ・ステップ1 ・少しずつ食べ、水分をとり、休む ・生活のリズムを整える |
・離婚の話を何度も持ち出す ・夜中に長いメッセージを送る |
| 体が落ち着いてきたころ | ・ステップ2と3 ・自分の言動を振り返る ・短いあいさつや感謝を伝える |
・相手の悪いところを並べる ・会話が増えてすぐに気持ちを確かめる |
| 半年以降から1年半ごろ | ・ステップ3と4 ・穏やかなやりとりを続ける ・自分の時間や楽しみを広げる |
・冷たくされた日に、すがる・責めるやり方に戻る |
※途中で後戻りしたように感じても、ステップ1に戻れば大丈夫です。
今の自分がどの時期にいるのかを確かめながら読み進めてください。それでは、それぞれのステップを詳しく見ていきます。
まず体と生活のリズムを整える
最初のステップは、2章でお伝えした対処法を続けて、体と生活のリズムを整えることです。少しずつ食べ、水分をとり、体を休める。この土台がないまま関係を何とかしようとしても、気持ちが続きません。
起きる時間と寝る時間をできる範囲でそろえるだけでも、生活は安定してきます。ここでは、夫婦関係のことは一度横に置いて、自分の回復を一番に考えてかまいません。
相手を責めずに自分の言動を振り返る
体が少し落ち着いてきたら、これまでの自分の言動を振り返ってみてください。4章でお伝えした方法で相手から理由を聞けていれば、それが大切な手がかりになります。
これは、自分を責めるための作業ではありません。相手の悪いところを並べるのでもありません。例えば、相手の話を最後まで聞かずに否定していた、疲れている相手に不満ばかり伝えていた、といった具体的な場面を思い出すことが大切です。
自分が変えられる部分が見えてくると、相手を変えようとする苦しさから解放されます。ここが、修復のいちばん大切な分かれ道です。
穏やかな日常のやりとりを積み重ねる
次のステップは、離婚の話には触れず、穏やかな日常のやりとりを積み重ねることです。おはよう、ありがとう、おつかれさま。こうした短い言葉を、気持ちを込めて自然に伝えていきます。
よくある失敗は、少し会話が増えたからといって、すぐに離婚の話を持ち出し、気持ちを確かめてしまうことです。安心できる時間を重ねることが、相手の心をゆるめていきます。焦りが出たときほど、このステップを大切にしてください。
自分の人生を少しずつ取り戻す
最後のステップは、相手だけを見て暮らすのではなく、自分の人生を少しずつ取り戻すことです。友人と会う、好きだったことを再開する、仕事に集中する。そうした時間が、あなたの表情を明るくしていきます。
相手の顔色ばかりうかがう人より、自分の毎日を大切にしている人のほうが、一緒にいて心地よく感じられるものです。自分の人生を大切にすることは、結果として夫婦関係を取り戻す力にもなります。
5-3. 食べられなくなった妻が1年半かけて夫婦関係を取り戻した事例■■
ここで、実際にこの流れで夫婦関係を取り戻した方の例をご紹介します。40代前半の会社員の女性で、夫と小学生の子ども2人の4人家族です。ご本人の了承を得たうえで、内容を一部変えてお伝えします。
ある晩、夫から、もう気持ちがない、離婚したいと告げられました。その日から食事がのどを通らなくなり、眠れない夜が続きました。夜中に夫へ長いLINEを何度も送り、そのたびに既読のまま返事がないことに、さらに追いつめられていきました。
彼女は夫には知らせず、一人でカウンセリングに来られました。最初の数か月は、ゼリーやスープから少しずつ食べること、内科で体を診てもらうこと、そして夜中にLINEを送らないことだけを続けてもらいました。
体が落ち着いてくると、彼女は自分の言動を振り返り始めました。仕事で疲れている夫に、家事の不満を毎日のようにぶつけていたことに気づいたのです。それからは不満を伝える代わりに、ありがとうとおつかれさまを欠かさないようにしました。
半年ほどたつと、夫が子どもの学校の話に少しずつ返事をするようになりました。ところがその少し後、夫からやはり離婚したいと改めて言われ、彼女は再び食欲を失いかけました。
それでも彼女は、以前のように夜中にLINEを送ることはしませんでした。もう一度体を整えることから始め、穏やかなあいさつを続けたのです。1年がたつころには、夫のほうから、最近なんだか変わったね、と声をかけてくれたそうです。
そして1年半ほどたったころ、夫は離婚の話を取り下げ、家族4人で食卓を囲む日が戻ってきました。今では、あのとき責め続けなくて本当によかったと話してくれています。
この例から分かるのは、最初に取り組んだのが、夫を説得することではなく、自分の体を整えることだったという点です。途中でつまずいても、体を整えるところに戻れば、また前に進めます。
6. 一人で修復を続けるために頼れる場所■■■
一人で始める修復は、時間がかかる分、途中で心が折れそうになることもあります。だからこそ、一人で抱え込まず、頼れる場所を持っておくことが大切です。この章では、修復を続けるための相談先と、その使い方をお伝えします。
6-1. 夫婦関係の悩みは一人で相談してもいい■■
夫婦の問題は、夫婦二人で相談しなければ意味がないと思われがちです。ですが、実際には、悩んでいる一方だけが相談しても、関係は十分に変えていけます。
5章でお伝えしたように、夫婦の関係は一方の変化から動き出します。相手に話し合う気持ちがない今だからこそ、自分が先に正しい方法を学ぶことに意味があるのです。
ただ、友人や家族への相談には限界もあります。話を聞いてもらうことで気持ちは楽になりますが、その人自身の経験にもとづくアドバイスが、あなたの夫婦に合うとは限りません。早く別れたほうがいいと言われて、かえって迷いが深まる方もいます。
私たちのカウンセリングも、夫婦二人ではなく、悩んでいる妻か夫のどちらか一方が、相手には内緒で受けていただく形をとっています。相手に知られずに始められるので、相手の気持ちを刺激することなく、自分のペースで修復に取り組めます。
一人で相談することは、相手を裏切ることではありません。夫婦関係を本気で取り戻すための、前向きな行動です。
6-2. 円満調停という公的な話し合いの方法■■
続いて、公的な手続きの中にも、夫婦関係を取り戻すための選択肢があることを知っておいてください。裁判所では、夫婦関係に関する調停として、離婚について話し合う調停のほかに、夫婦関係を円満にするための調停も案内しています。
これは一般に円満調停と呼ばれ、家庭裁判所で、第三者を交えて夫婦関係を円満にするための話し合いをするものです。離婚を前提とした話し合いだけが、裁判所の手続きではないのです。
相手が話し合いにまったく応じてくれない場合や、二人だけだと感情的になってしまう場合には、ひとつの選択肢になります。第三者が間に入ることで、お互いの考えを落ち着いて伝えやすくなることもあります。
一方で、裁判所からの連絡を受けた相手が、大ごとにされたと感じて身構えてしまうこともあります。申し立てるかどうか、いつ申し立てるかは慎重に考える必要があります。まずは体を整え、日常のやりとりを重ねたうえで、それでも話し合いが難しいときに検討するのがよいと私は考えています。
6-3. カウンセリングを受けるときに意識したいこと■■
最後に、夫婦関係のカウンセリングを受けるときに意識してほしいことをお伝えします。一つ目は、相手を変える方法ではなく、自分がどう変わるかを学ぶ場だと考えることです。
相手をどうにか説得する言葉を求めて相談に行っても、関係はなかなか動きません。自分の受け止め方や伝え方を変えることで、はじめて相手の反応が変わっていきます。
二つ目は、体や心の不調が強いときは、医療を優先することです。3章でお伝えしたような状態があるなら、まずは医療機関で体を立て直してください。カウンセリングは、体がある程度落ち着いてからのほうが、学んだことを実践しやすくなります。
三つ目は、焦らず続けることです。5章でお伝えしたように、夫婦関係の修復には時間がかかります。少し良くなったと思ったら、また冷たくされる。そんな波を何度もくり返しながら、関係は少しずつ前に進んでいきます。
焦りそうになったら、自分が食べられるようになった日のことを思い出してください。あのときの小さな一歩と同じように、夫婦関係も小さな変化の積み重ねで取り戻していけるのです。
7. よくある質問■■■
ここまでの内容をふまえて、離婚したいと言われて食欲がなくなった方から、とくによくいただく質問にお答えします。
食欲がないことに子どもが気づいたら、次のように簡単に伝えるだけで大丈夫です。
「ちょっとお腹の調子が悪いだけだよ。心配してくれてありがとう」
また、子どもの前で相手を悪く言うことは避けてください。子どもが安心して過ごせる家庭を守ることは、将来、夫婦関係を取り戻したときの大切な土台にもなります。
職場には、家庭の事情をくわしく話す必要はありません。例えば、次のように伝えるだけで十分です。
「体調を崩してしまい、今日はお休みをいただけますでしょうか」
休みが何日も続きそうなときや、仕事のことを考えるだけで動けなくなるときは、3章でお伝えしたように医療機関に相談してください。
まとめ■■■
離婚したいと言われて食欲がなくなるのは、大きなショックを受けた心と体の自然な反応です。最後に、この記事でお伝えした大切なポイントを振り返ります。
- 食べられないのは弱さではなく、心と体の自然な反応
- 食欲がないときは、ひと口と水分と休息から始める
- 水分もとれないなど強い不調があれば、早めに受診する
- 離婚の返事は急がず、弱ったまま相手を追いかけない
- 体を整え、一人で先に変わることが夫婦関係修復の第一歩
今は、夫婦関係のことを考えるだけで胸が苦しくなるかもしれません。ですが、まずは今日、ひと口だけ何かを口に入れてみてください。それだけで、あなたはもう回復への一歩を踏み出しています。
相手の協力がなくても、夫婦関係は一人から変えていけます。私はこれまで、離婚を切り出されたところから、時間をかけて笑顔を取り戻した夫婦をたくさん見てきました。
体を整え、自分を責めるのをやめ、穏やかな毎日を少しずつ積み重ねていく。その先には、もう一度家族で食卓を囲める日が、きっと待っています。
この記事を書くにあたって、次の公的な情報を参考にしています。
- 厚生労働省「こころの耳」ストレスに気をつける・うつ病を防ぐ
- 厚生労働省「こころの耳」うつ病を防ぐ:ご存知ですか?うつ病
- 厚生労働省「こころの耳」ご家族にできること
- 厚生労働省「e-ヘルスネット」心身の不調への対応
- 厚生労働省「相談先一覧」「電話相談(自殺対策)」
- 裁判所「夫婦関係や男女関係に関する調停」
- 法務省民事局「不受理申出制度ってなに?」
この記事は、医師による診察や診断に代わるものではありません。体調に不安があるときは、医療機関に相談してください。



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