深夜、玄関のドアが閉まる音を聞いたあと、スマホを握りしめたまま動けずにいる。パートナーからもう帰らないと言われ、この先どうなってしまうのか分からず、眠れない夜を過ごしている方も多いのではないでしょうか。
追いかけたい気持ちと、追えばもっと嫌われるのではという怖さ。その間で、何をしたらいいのか分からなくなっているかもしれません。
ただ、最初にお伝えしておきます。もう帰らないという言葉は、離婚が決まったという意味ではありません。言われた直後の対応しだいで、その後の流れは大きく変わります。
大切なのは、言われた直後は引き止めずに受け止め、責めない短い連絡でつながりを保つことです。そして、相手の協力がなくても、関係修復はあなた一人から始められます。
私は夫婦関係修復コーチとして20年以上、1万組を超えるご夫婦の関係修復に関わってきました。その中には、悩んでいる側の一人が先に変わったことで、相手が家を出たところからもう一度一緒に暮らせるようになったご夫婦がたくさんいます。夫に家を出られた妻でも、妻に家を出られた夫でも、この考え方は同じです。
この記事では、次のことを順番にお伝えしていきます。
- もう帰らないと言われた直後にやるべきこと
- 相手が帰らないと言った理由の見極め方
- 帰らない相手への連絡の取り方と、避けたいNG行動
- 勝手に離婚されないための法律と生活の備え
- 相手の協力がなくても一人から始められる関係修復の方法
今は不安でいっぱいだと思います。だからこそ、まずは今夜からできることを一つずつ確認していきます。
1.「もう帰らない」と言われた直後にやるべき3つのこと
もう帰らないと言われた直後の数日は、その後の関係を大きく左右する大切な時期です。パニックの中でも、これだけは押さえておきたい対応は次の3つです。
- 引き止めずに「分かった」とまず受け止める
- 最初のLINEは責めずに追わない短い文面にする
- 相手の安全と居場所だけは確認しておく
順番に詳しくお伝えしていきます。
1-1.引き止めずに「分かった」とまず受け止める
まずやるべきことは、相手を無理に引き止めず、言われたことをいったん受け止めることです。
もう帰らないと口にするとき、相手はたいてい気持ちが限界まで追いつめられています。そこで強く引き止められると、やっぱり話が通じないと感じ、家を出る決心をかえって固めてしまうのです。
ここで誤解してほしくないのは、受け止めることと、離婚を受け入れることはまったく別だという点です。相手の気持ちを否定せずに聞きながら、自分の気持ちは短く一言だけ伝えれば十分です。
例えば、夫から「もう疲れた。しばらく帰らない」と言われた場合、次のように返すことができます。
「分かった。今は無理に止めないね。でも、私はこれからも一緒にいたいと思ってる」
LINEや電話で告げられた場合も、同じ短さで返せば十分です。文字だと長い反論や謝罪を書きたくなりますが、まずはこの一言にとどめてください。
反対に、泣いてすがる、玄関に立ちふさがる、その場で理由を問いつめるといった行動は、相手の心をさらに遠ざけます。私のカウンセリングでも、最初のこの場面で引き止めすぎたことを後悔している方は少なくありません。
今は気持ちを抑えるのがとてもつらいと思います。それでも、この一歩が、のちに相手が戻ってきやすい空気をつくる土台になります。
1-2.最初のLINEは責めずに追わない短い文面にする
最初に送るLINEは、責めないこと、答えを求めないこと、待っている気持ちを短く伝えることの3つを押さえた文面にしてください。文章は長くても4〜5行程度に収め、読むだけで相手が身構えない内容にすることが大切です。
なぜなら、この一通で、相手はあなたと連絡を取り続けても大丈夫かどうかを判断するからです。
例えば、次のような文面です。
「昨日はちゃんと話を聞けなくてごめん。今はゆっくり休んでね。返事はいらないよ。落ち着いたら、また話せたらうれしい」
返事はいらないと添えることで、相手は返信しなければというプレッシャーから解放されます。その結果、かえって返事をしやすくなることが多いのです。
よくある失敗は、反省の気持ちをすべて書き込んだ長文を送ってしまうことです。気持ちがこもっていても、受け取る側には重荷になり、読むこと自体を避けたくなってしまいます。
送ったあとは、返事がなくても続けて送らずに待ってください。返事がないことは、必ずしも拒絶ではありません。相手もまた、気持ちを整理している途中なのです。
1-3.相手の安全と居場所だけは確認しておく
最初のLINEとあわせて、相手が安全に過ごせているかどうかだけは確認しておいてください。これは相手を見張るためではなく、家族として当然の心配です。
実家にいるのか、友人の家なのか、ホテルなのか。おおまかな居場所が分かるだけで、あなた自身の不安もずいぶん落ち着きます。子供がいる場合は、子供に説明するためにも必要な情報です。
聞くときは、「どこにいるかだけ教えてもらえたら安心する。無理なら大丈夫」のように、断ってもいい余地を残しておくことが大切です。相手が答えたくなさそうなら、それ以上は聞かないでください。
相手が実家に帰っている可能性が高い場合は、義両親に無事だけを確認する方法もあります。
「お義母さん、突然すみません。〇〇さんがそちらにいるか心配で連絡しました。無事が分かれば、それで大丈夫です」
ここで夫婦の事情を詳しく話したり、説得をお願いしたりするのは避けてください。あくまで無事の確認だけにとどめることで、義両親を巻き込みすぎずにすみます。
なお、まったく連絡がつかず、事故や事件に巻き込まれた心配がある場合は、ためらわずに警察へ相談してください。安全が確認できて初めて、関係修復のことを落ち着いて考えられるようになります。
2.相手が「もう帰らない」と言った理由を見極める
直後の対応ができたら、次は相手がなぜ帰らないと言ったのかを考えていきます。理由によって、このあと取るべき対応が変わるからです。
まずは、次の中から当てはまるものを確認してみてください。かっこ内は、あてはまった場合に特に読んでほしい小見出しです。
- 言い争いの直後に、少ない荷物で出ていった(2-1)
- 以前から疲れた、分かってもらえないと口にしていた(2-2)
- 落ち着いた様子で告げられ、荷物を少しずつ運び出していた(2-2)
- 離婚届や弁護士の話が出た、またはスマホを急に隠すようになった(2-3)
- 相手からの暴力や暴言があり、一緒にいるのが怖いと感じていた(2-4)
これは、私がこれまで関わってきたご夫婦に多く見られた様子をまとめたものです。複数に当てはまることもあるので、断定するためではなく、見当をつけるための目安として使ってください。
2-1.喧嘩の直後で「頭を冷やしたい」と思っているケース
喧嘩の直後に勢いで帰らないと言って出ていったケースでは、相手に気持ちを落ち着ける時間をしっかり渡すことが最優先です。この場合、相手は離婚を決めたわけではなく、まず距離を置いて気持ちを落ち着けたいと考えていることが多いからです。
持ち出した荷物が少なかったり、行き先が実家だったりする場合は、このケースに近いかもしれません。相手は、お互いの顔を見ていると、また言い争ってしまうと感じているのです。
ここですぐに戻ってきてほしいと急かすと、相手は気持ちを整理できないまま、帰りたくない理由をさらに積み重ねてしまいます。
例えば、妻が子供の教育方針をめぐる言い争いのあと実家に帰った場合、数日後に「あのときは言い方がきつかった。ごめんね」と短く伝えるだけで、空気が和らぐことがあります。
ただし、喧嘩がきっかけでも、その裏にふだんからの不満が隠れていることはよくあります。喧嘩だけが原因だと思い込まず、次のケースもあわせて考えてみてください。
2-2.積み重なった不満が限界を超えてしまったケース
日々の小さな不満が積み重なって限界を超えてしまったケースでは、とりあえず謝るだけでは相手の気持ちは戻りません。相手が何に傷つき、何を分かってほしかったのかを理解しようとする姿勢が必要です。
私のカウンセリングで最も多いのが、このケースです。帰らないと言うときの相手が意外なほど落ち着いていたり、荷物を少しずつ運び出していたり、以前から「疲れた」「分かってもらえない」と口にしていたりした場合は、こちらに近いと考えてください。
ここで知っておいてほしいのは、相手は突然決めたのではなく、長い間我慢を続けてきたということです。言われた側には突然でも、相手にとっては何度も伝えようとしてきた結果なのです。
例えば、家事や育児の負担について妻から何度も話をされていたのに、そのたびに「忙しいから」と流してきた夫がいたとします。妻にとって帰らないという言葉は、最後のサインだったのかもしれません。
このケースは時間がかかりますが、決して手遅れではありません。相手の不満を一つずつ理解し、自分の行動を変えていくことで、関係は少しずつ動き出します。その具体的な方法は、後ほど詳しくお伝えします。
2-3.離婚や別の相手との生活を考え始めているケース
相手が離婚や、別の相手との生活を具体的に考え始めているケースでは、問いつめずに、まず自分の生活と立場を守る準備をすることが大切です。ここで相手を責め立てると、相手は離婚の気持ちをさらに固めてしまうからです。
離婚届や弁護士の話が出た、新しい住所を教えてくれない、スマホを急に隠すようになったといった様子がある場合は、このケースの可能性も考えておく必要があります。
この状況はとてもつらく、怒りや悲しみがわいてくるのは当然です。それでも、別の異性の存在が疑われるときに、すぐに問いつめたり、無理に証拠を探し回ったりするのは避けてください。疑いをぶつけられた相手は、自分を守るために心を閉ざし、話し合いの道まで閉ざしてしまうことが多いからです。
知っておくと少し安心できるのが、法律上の考え方です。浮気など、夫婦関係を壊す原因をつくった側からの離婚の求めは、裁判では原則として認められにくいとされています。ただし、実際の判断は事情によって変わるため、心配な場合は弁護士に確認してください。
勝手に離婚されないための手続きや生活費のことは、5章で詳しくお伝えします。
相手に別の異性の存在があったとしても、それで関係修復の道が閉ざされるわけではありません。私が関わってきたご夫婦の中にも、その状況から時間をかけて関係を取り戻した方がいます。
2-4.暴力や身の危険があるなら修復より安全を優先する
ここまで3つのケースをご紹介してきましたが、それよりも先に確かめてほしいのが、暴力や身の危険が関わっているかどうかです。もしあなたが相手から暴力を受けていたり、怖くて逆らえない状態にあったりするなら、修復よりも身の安全を最優先にしてください。
各地の配偶者暴力相談支援センターや、内閣府のDV相談ナビ(#8008)に相談できます。命の危険を感じるときは、すぐに110番に連絡してください。
一人で抱え込まないでほしいのには理由があります。内閣府の令和5年度「男女間における暴力に関する調査」をもとにした令和7年版男女共同参画白書によると、結婚経験者のうち配偶者から暴力を受けた経験がある人は25.1%でした。
さらに、被害を受けた人のうち44.2%は、どこにも相談していませんでした。つまり、暴力の問題は決して特別なことではなく、しかも一人で抱え込まれやすいのです。
反対に、相手が家を出た理由が、あなたの暴言や暴力にあるかもしれない場合もあります。そのときは、相手にとって家が安全な場所ではなかったという事実を受け止め、無理に連れ戻そうとしないことが何より大切です。
どちらの場合も、安全が確保されて初めて、関係をどうしていくかを落ち着いて考えられるようになります。
3.帰らない相手への連絡の取り方と話し合いのタイミング
相手がなぜ帰らないと言ったのか、おおよその見当がついてきたでしょうか。次は、帰らない相手とどのように連絡を取っていけばいいのかをお伝えします。
結論から言うと、連絡は相手の返信ペースに合わせ、返事がないときは短い気づかいを週に1回ほどにとどめるのが基本です。話し合いは、相手の反応に変化が見えてから持ちかけます。
3-1.連絡は相手の負担にならない間隔を守る
連絡の間隔で最も大切なのは、返事が来ていないうちに、次のメッセージを重ねて送らないことです。返事が来たら相手のペースに合わせて返し、返事がなければ、相手を気づかう短い一言を週に1回ほど送る。これが、相手の負担にならない連絡の基本です。
何日に1回が正解という決まりはありませんが、この形なら相手は追われていると感じにくく、それでいてつながりは保たれます。不安でも、毎日送り続けるのは避けてください。
例えば、夫が家を出て1週間返事がない妻の場合、「寒くなってきたね。体だけは気をつけてね」と送るだけで十分です。
未読のままでも、既読がついて返事がなくても、やることは同じです。相手にも読む余裕がない、返し方に迷っているなどの理由があるので、間隔を守って短い一言を続けてください。
ブロックされた場合は、別のアカウントを作ったり、知人を通して連絡したりするのはやめてください。相手は追いつめられていると感じ、さらに遠ざかってしまいます。
子供やお金のことなど、どうしても必要な用件があるときだけ、手紙を一通送るか、5章でお伝えする制度を使う方法を考えてください。ブロックは今は距離を置きたいというサインなので、しばらくは自分を整える時間にあてるのが近道です。
焦ってたくさん送りたくなるときは、送りたい言葉をスマホのメモに書いておく方法もあります。書き出すことで気持ちが少し落ち着き、本当に送るべき言葉かどうかを見直すこともできます。
3-2.返信がなくても送ってよい内容と送ってはいけない内容
連絡の間隔と同じくらい大切なのが、何を送るかです。まず、返事がない間に送ってはいけないのは、相手に答えを迫る言葉や、一方的に気持ちを押しつける言葉です。
例えば、「いつ帰ってくるの?」と返事を急かす言葉や、「離婚なんて絶対にしないから」と一方的に宣言する言葉です。こうした言葉を受け取ると、相手は追いつめられていると感じ、連絡そのものを避けるようになってしまいます。
一方で、返事がない間でも安心して送ってよい内容は、次の3つです。
- 体調や安全を気づかう一言
- 子供の様子など生活に必要な連絡
- 責めずに待っていると伝える言葉
それぞれ詳しく見ていきます。
①体調や安全を気づかう一言
相手の体調や生活を気づかう言葉は、最も受け取りやすいメッセージです。何かを求める内容ではないため、相手も読むことに抵抗を感じにくいからです。「ちゃんと眠れてる?無理しないでね」くらいの短さがちょうどよいです。
②子供の様子など生活に必要な連絡
子供がいる場合は、子供の様子を伝える連絡も大切です。「今日、〇〇が運動会でリレーに出たよ。がんばってた」のように、事実だけを明るく伝えてください。
ここで「〇〇もパパに会いたがってる」と付け加えると、子供を使って責めているように受け取られることがあります。子供の様子は、事実を伝えるだけにとどめてください。
③責めずに待っていると伝える言葉
ときどきは、あなたの気持ちを短く伝えてもかまいません。「あなたのペースで大丈夫。私はここにいるよ」のように、急かさずに待っていることが伝わる言葉を選んでください。
ただし、この言葉を頻繁に送ると、かえって重く感じられてしまいます。ふだんは①や②の連絡を中心にして、たまに添える程度がちょうどよいです。
3-3.話し合いを持ちかけてよいタイミングの見極め方
話し合いを持ちかけてよいのは、相手から返事が来るようになった、相手の方から用事で連絡してくるようになった、言葉づかいがやわらかくなった、といった変化が見られたときです。こうした変化は、相手の気持ちに少し余裕が戻ってきたサインです。
反対に、こうした変化がないうちに話し合いを求めると、相手は追いつめられたと感じ、かえって関係を遠ざけてしまいます。
タイミングが来たら、「少しだけ時間をもらえないかな。あなたの話をちゃんと聞きたい」のように、聞くことが目的だと伝えて誘ってください。場所は家ではなく近くのカフェなど、相手がすぐに帰れる場所を選ぶと安心してもらいやすくなります。
当日は、答えを出すことではなく、相手の話を聞くことだけを目的にしてください。帰ってくるかどうかの話は持ち出さず、相手が話し始めたら、途中で言い返さずに最後まで聞きます。
相手の不満を聞いたときは、反論や言い訳をせず、相手の言葉を受け止めて返すことが大切です。例えば、妻から「ずっと一人で頑張ってきたのに、何も分かってくれなかった」と言われたら、夫は次のように返すことができます。
「一人で全部抱えさせてたんだね。気づかなくて、本当にごめん」
自分の言い分を伝えたくなっても、最初の話し合いではぐっとこらえてください。相手が話し足りないくらいの短い時間で終え、「話してくれてありがとう」と伝えて別れれば十分です。
相手に誘いを断られても、責めたり落ち込んだ様子を見せたりせず、「分かった。また気が向いたら教えてね」と返してください。その一言が、次の機会につながります。
4.相手の気持ちをさらに遠ざけてしまう5つのNG行動
ここまで、連絡の取り方と話し合いのタイミングについてお伝えしてきました。ただ、どれだけ正しい連絡をしていても、同時にNG行動をしてしまうと、それまでの積み重ねが一気に崩れてしまいます。
不安なときほどやってしまいがちなNG行動は、次の5つです。
- 何度も電話やLINEを送り続ける
- 実家や職場に押しかける
- 感情的に責めたり過去を蒸し返したりする
- 義両親や子供を使って説得しようとする
- 自分も意地になって連絡を断つ
なぜそれぞれが逆効果になるのか、代わりにどうすればいいのかを順番に解説していきます。
4-1.何度も電話やLINEを送り続ける
最もやってしまいやすいのが、返事が来ないことに耐えられず、電話やLINEを何度も送ってしまうことです。
送る側は不安でいっぱいでも、受け取る側には、スマホを開くたびに並ぶ着信やメッセージが重い圧力になります。その結果、相手はあなたからの連絡を見ること自体がつらくなり、通知を切ったり、ブロックしたりするようになってしまうのです。
例えば、夜中に「お願いだから返事して」「どうして無視するの」と何通も送ってしまった場合、翌朝それを見た相手は、やっぱり家には戻れないと感じてしまうかもしれません。
どうしても連絡したくなったときは、3-1でお伝えしたように、まずメモに書き出してみてください。一晩置いてから読み返すと、送らなくてよかったと思えることがほとんどです。
4-2.実家や職場に押しかける
返事が来ない状態が続くと、直接会いに行けば話ができるのではと考えてしまうかもしれません。しかし、相手の実家や職場に押しかけるのは、関係をさらに悪くする行動です。
突然会いに来られた相手は、逃げ場がなくなったと感じ、恐怖を覚えることもあります。特に職場に行くと、相手の仕事や周囲からの信頼にまで影響が出てしまいます。
居場所を知ろうとして、相手の車や持ち物にGPSを付けたり、スマホをこっそり見たりするのも同じです。見つかれば信頼は一気に失われ、くり返せば法的なトラブルになるおそれもあります。
会いたい気持ちは、相手を大切に思っているからこそのものです。だからこそ、その気持ちは相手が会ってもいいと思えるタイミングまで大切にとっておいてください。
会う場所や時間は、相手に選んでもらうのが基本です。相手が自分で決めて会いに来てくれたときの方が、ずっと落ち着いて話ができます。
4-3.感情的に責めたり過去を蒸し返したりする
ようやく連絡が取れたときや話し合いの場で、感情的に責めてしまうのもよくある失敗です。
「あなたはいつもそう」「あのときだって」と過去を持ち出されると、相手は自分を守ることに必死になります。そうなると、あなたの言葉は届かなくなり、言い争いになって終わってしまいます。
気持ちを伝えたいときは、相手を主語にせず、自分を主語にして話すことを意識してください。
例えば、「あなたは勝手すぎる」と言いたくなったときは、「急にいなくなって、すごく不安だった」と言いかえることができます。同じ気持ちでも、責める言葉ではなく、自分の気持ちを伝える言葉に変えるだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。
もちろん、つらい気持ちを抑え続けるのは簡単なことではありません。気持ちがあふれそうなときは、その場で話を続けず、「今日はここまでにしてもいいかな」と区切ることも大切な選択です。
4-4.義両親や子供を使って説得しようとする
自分の言葉が届かないと感じると、義両親や子供の力を借りて説得してもらおうと考えることがあります。しかし、これも相手の気持ちを遠ざけてしまう行動です。
義両親から「早く帰りなさい」と言われた相手は、自分の味方がいなくなったように感じ、かえって意地になってしまいます。1-3でお伝えした無事の確認と、説得をお願いすることは、まったく別のものだと考えてください。
子供に「パパに帰ってきてって言って」とお願いするのは、さらに避けたい行動です。子供は両親の間で板挟みになり、自分が何とかしなければと重い責任を背負ってしまいます。
相手の気持ちを動かせるのは、まわりからの説得ではなく、あなた自身の変化です。遠回りに思えても、そのほうが確実に相手の心に届きます。
4-5.自分も意地になって連絡を断つ
最後は、ここまでとは反対の行動です。返事が来ない日々が続くと、もう知らない、勝手にすればいいと、自分から連絡を断ってしまう方もいます。
傷ついた心を守るために、そう思ってしまうのは自然なことです。ただ、相手から見ると、あなたが関係をあきらめたように映ります。そうなると、相手は戻るきっかけを失い、離れたままの状態が当たり前になってしまいます。
例えば、相手が少し気持ちを落ち着けて連絡しようと思ったときに、あなたからの連絡が完全に止まっていたら、相手は今さら連絡しても遅いと感じるかもしれません。
大切なのは、追いかけすぎず、扉を閉めすぎないことです。たまに届く短いメッセージは、いつでも戻ってきていいという合図になります。その合図を、あなたの側から絶やさないでください。
5.帰らない状態が続くときに知っておきたい法律と生活の備え
ここまでは、相手との連絡や向き合い方についてお伝えしてきました。ただ、相手が帰らない状態が長くなると、生活費のことや、勝手に離婚されてしまわないかという不安も出てきます。
結論から言うと、相手が帰らないだけでは離婚は成立せず、勝手な離婚は離婚届不受理申出で防ぐことができます。帰らない間の生活費も、婚姻費用として請求できます。この備えがあるだけで、心に余裕を持って関係修復に向き合えるようになります。
この章で紹介する3つの制度の違いは、次の表のとおりです。まずは自分に必要なものの見当をつけてから、各小見出しを読み進めてください。
| ▼帰らない状態が続くときに知っておきたい3つの制度 | |||
| 制度 | こんなときに | 手続き先 | 費用 |
|---|---|---|---|
| 離婚届不受理申出 | 勝手に離婚届を出されないようにしたい | 本籍地または住所地の市区町村役場 | かからない |
| 婚姻費用の分担請求調停 | 帰らない相手から生活費が入らない | 家庭裁判所(原則として相手の住所地) | 収入印紙1,200円分 連絡用の郵便切手 |
| 夫婦関係調整調停(円満) | 夫婦だけでは修復の話し合いができない | 家庭裁判所(原則として相手の住所地) | 収入印紙1,200円分 連絡用の郵便切手 |
5-1.相手が帰らないだけで離婚が成立するわけではない
まず知っておいてほしいのは、相手が家を出て帰らないからといって、それだけで離婚が成立するわけではないということです。
日本で離婚する方法の多くは、夫婦が話し合って合意し、離婚届を提出する協議離婚です。あなたが離婚に同意しない限り、話し合いだけで離婚が決まることはありません。
話し合いで合意できない場合、相手は家庭裁判所の調停を申し立てることになります。調停でも合意できなければ裁判に進みますが、裁判で離婚が認められるには、法律で定められた離婚の理由があると判断される必要があります。
ですから、相手の言葉だけで今すぐ離婚が決まってしまうと焦る必要はありません。
ただし、別居が長く続いた場合の扱いについては、気になる方も多いと思います。この点は、後ほどよくある質問の中で詳しくお伝えします。
5-2.勝手に離婚されないための離婚届不受理申出
離婚届不受理申出とは、あなた本人が役所の窓口で届け出をしない限り、離婚届が受理されなくなる制度です。離婚に同意していないのに、相手が勝手に離婚届を書いて提出してしまうのではと心配なときに役立ちます。
提出先は、本籍地または住所地の市区町村役場です。原則として本人が窓口に行き、本人確認書類を見せて手続きをします。
手数料はかからず、取り下げない限り効力は続きます。もし相手が離婚届を出そうとした場合は、受理されず、申出をしたあなたに知らせが届く仕組みになっています。
この申出は、相手を疑って攻撃するためのものではありません。勝手に離婚されないという安心があるからこそ、落ち着いて関係修復に取り組めるのです。
離婚届に勝手にサインされる心配が少しでもあるなら、早めに手続きしておくことをおすすめします。
5-3.帰らない間の生活費は婚姻費用として請求できる
婚姻費用とは、別居中でも夫婦がそれぞれの収入などに応じて分担する、生活費や自立していない子供の養育費などのことです。相手が帰らなくなって生活費が入らないときは、この婚姻費用を請求できます。
法務省の情報でも、夫婦が別居した場合はこうした婚姻費用を分担することになっていると説明されています。別居していても、夫婦であることに変わりはないからです。
金額の目安は、裁判所が公表している養育費・婚姻費用算定表で、夫婦それぞれの収入や子供の人数・年齢から確認できます。目安を知っておくと、相手と話し合うときにも落ち着いて臨めます。
まずは相手と話し合って決めるのが基本です。話し合いがまとまらない場合や、話し合い自体ができない場合は、家庭裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てることができます。
裁判所の案内によると、申立ての手数料は収入印紙1,200円分で、ほかに連絡用の郵便切手が必要です。調停では、夫婦双方の収入や資産、支出などを考慮して話し合いが進められ、合意できない場合は審判の手続きに移ります。
反対に、あなたの方が収入が多い場合は、相手に婚姻費用を支払う立場になることもあります。そのときに誠実に支払う姿勢は、相手からの信頼を取り戻し、関係修復の土台を守ることにもつながります。
5-4.夫婦だけで話せないときは円満調停という選択肢がある
夫婦関係調整調停(円満)とは、家庭裁判所で調停委員を交えて、夫婦関係を修復するための話し合いをする手続きです。家庭裁判所は離婚の手続きだけをする場所ではなく、こうした関係修復のための制度もあります。
裁判所の案内によると、この調停では、調停委員が夫婦双方から事情を聞き、関係が悪くなった原因や、改善するためにどんな取り組みが必要かについて話し合います。
夫でも妻でも申し立てることができ、離婚するかどうか迷っている場合にも利用できます。申立ての手数料は収入印紙1,200円分で、ほかに連絡用の郵便切手が必要です。
夫婦二人だけで話そうとすると、どうしても感情的になってしまう場合は、第三者が間に入ることで落ち着いて話せることがあります。
ただし、調停は相手に来てもらうことを無理やり強制できるものではなく、調停に参加すれば相手の気持ちが必ず戻るというものでもありません。私は、調停を考える前に、まず自分自身が変わる準備を始めることをおすすめしています。
あなたの変化を相手が感じ取ったうえで話し合いの場を持てば、調停はより意味のある時間になります。円満調停は、その段階で使える心強い選択肢の一つとして覚えておいてください。
5-5.子供がいる場合に親として気をつけたいこと
子供がいる場合は、夫婦の問題と同じくらい、子供の心を守ることも大切です。親の一人が急に帰らなくなると、子供は言葉にできない不安を抱えるからです。
法務省は、親の別居や離婚によって、子供が不安や落ち込みを感じたり、自分のせいではないかと思い込んだりすることがあると説明しています。そのうえで、年齢に合わせて説明し、あなたのせいではないと伝えることや、子供の不安を聞くことをすすめています。
例えば、子供から「パパ、いつ帰ってくるの?」と聞かれたときは、次のように答えることができます。
「パパとママはね、今ちょっと離れて考えごとをしてるんだ。〇〇のせいじゃないよ。パパも〇〇のことが大好きだからね」
また、子供の前で相手の悪口を言ったり、電話で言い争ったりすることは避けてください。子供にとっては、どちらの親も大切な存在です。どちらかを悪く言われることは、自分の一部を否定されるような痛みになります。
離れて暮らす親と子供が会う機会も、できるだけ大切にしてください。会うことをこばんだり、子供の様子を探らせたりせず、送り迎えの場面では短くても穏やかにあいさつをします。
子供が安心して両方の親と過ごせることは、子供の心を守るだけではありません。穏やかに会える関係が続くことで、相手にとっても家族とのつながりが保たれ、夫婦の信頼を取り戻す土台にもなっていきます。
6.相手の協力がなくても一人から始められる関係修復の5ステップ
ここまでで、相手が帰らない間に生活と立場を守るための備えが整いました。ここからは、いよいよ関係修復そのものに取り組んでいきます。
関係修復というと、夫婦二人で話し合わなければ始まらないと思われがちです。しかし実際には、悩んでいる側の一人が先に変わることで、相手の気持ちが少しずつ動き出すケースがほとんどです。
相手が話し合いに応じてくれない今だからこそ、自分一人でできることから始めていきます。一人から始められる関係修復の流れは、次の5つのステップです。
- 自分を責める気持ちを整理して心を落ち着ける
- 相手が離れた理由を自分の言動から振り返る
- 相手が安心できる伝え方に変える
- 家を相手が帰りたくなる場所に整える
- 相手が戻ってきた日の迎え方を準備しておく
これらは数日や数週間で終わるものではありません。私の経験では、関係が修復に向かうまでには、多くの場合1年から1年半ほどかかります。時期ごとのおおまかな流れは、次の表のとおりです。
| ▼もう帰らないと言われてから関係修復までの流れ | ||
| 時期 | 相手の様子 | 自分がやること |
|---|---|---|
| 最初の3か月ほど | 返事がほとんどないことが多い | 自分の心を整え、連絡を週1回ほどの短い気づかいに落ち着かせる |
| 3か月〜半年ほど | 短い返事や用件のやりとりが少しずつ戻る | 感謝を言葉にし、相手が安心できる伝え方を重ねる |
| 半年〜1年ほど | 会って話す機会が増え、表情や言葉がやわらぐ | 答えを急がず、相手の話を聞くことに徹する |
| 1年前後〜1年半ほど | 自分の意思で帰ることを考え始める | 家を帰りたくなる場所に整え、迎え方を準備する |
6-1.ステップ1:自分を責める気持ちを整理して心を落ち着ける
最初のステップは、相手に何かをすることではなく、自分の心を落ち着けることです。
もう帰らないと言われると、多くの方が、全部自分のせいだと自分を責め続けてしまいます。しかし、自分を責める気持ちでいっぱいのままでは、相手の気持ちを考える余裕が生まれません。不安から焦った行動を取ってしまい、かえって相手を遠ざけることにもつながります。
私はこれまでの経験から、関係がこじれる大きな原因の一つは、不安や雑念で頭がいっぱいになり、本来の力を出せなくなることだと考えています。頭の中が静かになって初めて、相手の気持ちを想像し、正しい行動を選べるようになるのです。
ここで大切なのは、反省することと、自分を責めることを分けて考えることです。反省は、これからどう変わるかを考えるためのものです。一方で、自分を責めることは、自分の価値を下げるだけで、何も前に進めてくれません。
心を落ち着けるためにおすすめなのが、今の気持ちを紙に書き出すことです。不安、悲しみ、怒り、後悔など、思いつくままに書いてみてください。頭の中でぐるぐる回っていた気持ちを外に出すだけで、少しずつ冷静さが戻ってきます。
あわせて、眠る、食べる、少し体を動かすといった、生活の基本も大切にしてください。眠れない、食べられない、仕事が手につかない状態が何週間も続くときは、一人でがまんせず、医療機関や相談窓口を頼ってください。
あなたが落ち着いていることは、相手が安心して戻ってこられる一番の土台になります。まずは自分を立て直すことが、関係修復の第一歩です。
6-2.ステップ2:相手が離れた理由を自分の言動から振り返る
心が少し落ち着いてきたら、次は相手が離れていった理由を、自分の言動から振り返っていきます。
ここで振り返るのは、相手の悪いところではありません。相手を変えることはできませんが、自分の言動は今日から変えられるからです。相手にも原因があったとしても、まずは自分が変えられる部分に目を向けることが、修復への近道になります。
振り返るときは、相手がこれまでに口にしていた不満や、ため息をついていた場面を思い出して書き出してみてください。何気なく言われた一言にも、大切なヒントが隠れていることがあります。
次のシートを使い、記入例を参考にしながら3つの欄を埋めてみてください。
| ▼相手が離れた理由を見つける振り返りシート | ||
| 相手が言っていた不満・見せていた様子 | そのときの自分の言動 | これから変えたい行動 |
|---|---|---|
| (記入例) 「家にいても休まらない」と言われた |
帰ってきた夫に、その日の不満をすぐにぶつけていた | 帰ってきたら、まずおつかれさまと声をかけ、話は落ち着いてからにする |
こうして書き出していくと、相手にとって家が居心地のよくない場所になっていた理由が、少しずつ見えてきます。つらい作業ですが、ここで見えてきたことこそが、関係を変えていくための出発点です。
ただし、2-4でお伝えしたように、あなたが暴力を受けていた場合は、この振り返りよりも安全の確保を優先してください。
6-3.ステップ3:相手が安心できる伝え方に変える
振り返りで自分の言動の課題が見えてきたら、次は伝え方を変えていきます。相手の気持ちを動かすのは、何を言うかよりも、どう伝えるかだからです。
私がこれまで関わってきたご夫婦でも、関係がこじれる原因の多くは、気持ちそのものではなく伝え方にありました。相手を大切に思っていても、責めるような言い方や命令するような言い方をしていると、その気持ちは届きません。
基本は、4-3でもお伝えしたように、相手ではなく自分を主語にして話すことです。そのうえで、相手への感謝や、相手の気持ちを分かろうとしていることを言葉にしてください。
伝え方が特に問われるのが、相手に謝るときです。ただごめんと言うだけでは、相手は何が分かったのかと感じてしまいます。相手の心に届く謝罪には、自分の言動の具体的な振り返り、相手の気持ちへの理解、これからどう変えるかの3つが入っています。
例えば、妻に家を出られた夫が、ステップ2の振り返りをもとに謝る場合は、次のような伝え方になります。
「仕事で疲れてるからって、家のことも子供のことも全部任せきりにしてたよね。君がどれだけ一人で抱えてつらかったか、やっと分かった。本当にごめん。これからは、自分から動くようにする」
謝罪も伝え方も、一度で身につくものではありません。最初はぎこちなくても、言葉どおりに行動が変わっていくのを見て、相手は少しずつあなたを信じられるようになります。
6-4.ステップ4:家を相手が帰りたくなる場所に整える
伝え方を変えていくのと同じくらい大切なのが、家そのものを、相手が帰りたくなる場所に整えていくことです。
ここでいう整えるとは、部屋をきれいにすることだけではありません。相手にとって家が、責められる場所、気をつかう場所ではなく、ほっとできる場所に変わっているかどうかが大切なのです。
そのためには、あなた自身が家の中で穏やかに過ごしていることが何よりの力になります。毎日の生活の中で、笑顔でいられる時間や、自分を大切にする時間を少しずつ増やしていってください。
例えば、子供がいる場合は、子供と楽しく過ごした出来事を短いLINEで相手に伝えるのも一つの方法です。家の中が明るい空気に変わっていることは、言葉で説明するよりも、こうした小さな出来事を通して相手に伝わっていきます。
反対に、相手が帰ってくることばかりを考えて暮らしていると、表情や言葉に不安や焦りがにじみ出てしまいます。相手のためだけでなく、自分と子供のために心地よい毎日をつくることを意識してください。その穏やかな毎日こそが、相手が戻ってくるきっかけになるのです。
6-5.ステップ5:相手が戻ってきた日の迎え方を準備しておく
最後のステップは、相手が戻ってきた日のために、迎え方を準備しておくことです。まだ先のことに思えるかもしれませんが、この準備が関係修復の仕上げを左右します。
実は、相手が戻ってきた直後に関係が再びこじれてしまうケースは少なくありません。うれしさのあまり、離れていた間のつらさを一気にぶつけてしまったり、どうして出ていったのかと理由を問いつめてしまったりするのです。
相手は、戻ることを決めるまでに、たくさん迷ってきています。そのため、戻ってきた日は、何も問いつめずに、ただ迎え入れることが大切です。
例えば、相手が玄関に立ったときは、次のような一言で十分です。
「おかえり。帰ってきてくれてうれしい」
話し合いが必要なことは、相手が家での生活に慣れて、落ち着いてきてからで間に合います。戻ってきてすぐに、これまでのことを全部解決しようとしなくて大丈夫です。
また、相手が戻ってきたことは、関係修復のゴールではなく、新しいスタートです。ここまで積み重ねてきた伝え方や家の空気を、戻ってきた後も続けていくことで、以前よりも深い信頼関係を築いていけます。
7.「もう帰らない」から1年かけて夫婦関係を取り戻した事例
ここまで、一人から始められる5つのステップをお伝えしてきました。とはいえ、本当にそんなふうに関係が戻るのかと、不安に思う方もいると思います。そこで、実際に私のもとに相談に来られた方の事例をご紹介します。なお、ご本人が特定されないよう、内容の一部を変えています。
7-1.夫に家を出られた妻が一人で変わり始めた最初の3か月
Aさんは40代前半の会社員で、小学生の子供が2人いました。ある晩、夫から「もう帰らない。疲れた」と言われ、夫はその日のうちに実家へ戻ってしまいました。
最初の数週間、Aさんは毎晩のように夫に電話やLINEを送り、返事がないことに苦しんでいました。そんな中、夫には内緒で、一人で私のカウンセリングに来られたのです。
最初に取り組んだのは、連絡を減らし、自分の心を落ち着けることでした。Aさんは、毎日の不安を紙に書き出し、夫へのLINEは週に1回、体調を気づかう短い一言だけにしました。
次に、夫がこれまで口にしていた不満を振り返りました。すると、仕事から帰った夫に、家事や子供のことで毎日のように注意をしていた自分の姿が見えてきたのです。夫が家で休めていなかったことに、Aさんはこのとき初めて気づきました。
この3か月の間、夫からの返事はほとんどありませんでした。それでもAさんは、責める言葉を送らないこと、子供の前で夫の悪口を言わないことだけは守り続けました。
7-2.少しずつ会話が戻り始めた半年後
夫が家を出てから半年ほどたった頃、変化が少しずつ表れ始めました。子供の行事の連絡をきっかけに、夫から短い返事が届くようになったのです。
Aさんは、すぐに帰ってきてほしいと伝えたい気持ちを抑え、伝え方を意識して返事をしました。「連絡ありがとう。子供たちも喜んでたよ」と、感謝と子供の様子だけを伝えるようにしたのです。
この頃、Aさん自身の毎日も変わっていました。以前のように完璧な家事を目指すことをやめ、子供と笑って過ごす時間を大切にするようになっていたのです。その様子は、子供との面会を通して夫にも伝わっていきました。
あるとき、夫から「最近、子供たちが楽しそうだね」というLINEが届きました。Aさんにとって、それは夫の心が少しだけ家のほうに向き始めたと感じられた瞬間でした。
その後、夫の提案で、二人で短い時間だけ外で会うことになりました。Aさんは、その場で答えを求めず、夫の話をただ聞くことに徹しました。
7-3.夫が自分の意思で帰ってきた1年後
夫と外で会う機会は、その後も少しずつ増えていきました。会うたびに夫の表情はやわらかくなり、仕事の話や子供の話を自分からしてくれるようになったのです。
そして、夫が家を出てからおよそ1年がたった頃、夫のほうから「そろそろ家に戻ってもいいかな」と切り出してくれました。Aさんは、問いつめたい気持ちをぐっと抑えて、「おかえり。帰ってきてくれてうれしい」とだけ伝えたそうです。
戻ってきてしばらくたってから、夫はAさんにこう話してくれました。「家に帰っても責められるだけだと思ってた。でも、離れている間に君が変わったのが分かって、もう一度やり直したいと思えた」
その後も、Aさんは伝え方や家の空気を大切にし続けています。戻ってから半年ほどたった今では、以前よりも何でも話せる夫婦になれたと話してくれました。
7-4.事例から分かる関係修復の共通点
Aさんの事例は特別なものではありません。例えば、妻から「もう帰らない」と言われて子供と一緒に実家へ帰られた30代の夫Bさんも、一人で自分の言動を見直すことから始めました。
Bさんは、妻への命令口調や、休日に家族と過ごさなかったことを振り返り、伝え方と過ごし方を少しずつ変えていきました。その変化が子供との面会を通して妻に伝わり、1年半ほどかけて、妻と子供は家に戻ってきました。
こうした関係を取り戻したご夫婦には、立場が夫でも妻でも、次の3つの共通点があります。
- 相手を変えようとせず自分が先に変わった
- 返事がない時期も責めずにつながりを保った
- 焦らずに時間をかけて続けた
それぞれ詳しく見ていきます。
①相手を変えようとせず自分が先に変わった
AさんもBさんも、相手に帰ってきてほしいと説得するのではなく、自分の伝え方と毎日の過ごし方を変えることに力を注ぎました。相手を変えようとするほど、相手は身構えて離れていきます。自分が変わることは、相手に何も求めずにできる、最も確かな方法なのです。
②返事がない時期も責めずにつながりを保った
Aさんの場合、最初の3か月は夫からの返事がほとんどありませんでした。それでも週に1回の短い気づかいの言葉を送り続けました。追いかけすぎず、扉を閉めすぎない連絡が、相手が戻るきっかけを残してくれたのです。
③焦らずに時間をかけて続けた
Aさんは会話が戻るまでに半年、夫が帰ってくるまでに1年かかりました。その間、目に見える変化がなくても続けたことが、最終的に大きな結果につながっています。途中で結果を急いでいたら、相手の気持ちはまた離れていたかもしれません。
関係修復は、一人の変化から始められます。そして、その変化は時間をかけて、必ず相手に伝わっていきます。
8.一人で抱え込まずに専門家の力を借りるという選択
Aさんの事例を読んで、自分にもできるかもしれないと思えた方もいれば、一人で続けられるか不安に感じた方もいると思います。実際、返事のない時期に一人で前向きな気持ちを保ち続けるのは、簡単なことではありません。ここでは、一人で抱え込まずに専門家の力を借りるという選択についてお伝えします。
8-1.友人や家族への相談だけでは解決しにくい理由
つらいとき、まず友人や家族に話を聞いてもらうのは、とても大切なことです。気持ちを吐き出すだけで、心が軽くなることもあります。
ただ、友人や家族への相談だけでは、関係修復がうまく進まないことが多いのも事実です。友人や家族のアドバイスは、どうしてもその人自身の経験にもとづいたものになります。その人の夫婦にはうまくいった方法でも、あなたの夫婦に合うとは限りません。
また、あなたを大切に思う人ほど、相手を悪く言ってあなたの味方をしてくれます。その言葉に一時的に救われても、相手への怒りが強まり、関係修復から遠ざかってしまうことがあるのです。共通の知人に話した内容が、思わぬ形で相手に伝わってしまうこともあります。
一方で、専門家にも役割の違いがあります。離婚届や婚姻費用などの手続き、法律上の見通しを知りたいときは弁護士が頼りになります。ただ、弁護士の役割は法律の問題を解決することで、相手の気持ちを取り戻す方法までは扱いません。
今までと同じやり方では、同じ結果しか生まれません。関係そのものを本当に変えたいなら、夫婦関係のしくみを知り、正しい方法を身につける専門のサポートが必要なのです。
8-2.パートナーに内緒で一人から始められるカウンセリング
私が行っているカウンセリングは、夫婦二人で受けるものではありません。悩んでいる妻か夫のどちらか一方だけが、パートナーには内緒で受けていただく形です。
相手がもう帰らないと言っている状況では、夫婦一緒にカウンセリングを受けることは難しいと思います。だからこそ、あなた一人が先に学び、変わっていく方法を大切にしています。
最初は、相手が家を出るまでの経緯や今の状況、あなたが望む未来をお聞きするところから始めます。そのうえで、今のあなたの状況で最初に取り組むべきことと、返事のない時期にどう関わればよいかを一緒に整理していきます。
カウンセリングでは、その場で話を聞いて終わりにするのではなく、科学的な根拠にもとづいた実践的な方法をお伝えしています。不安に振り回されずに落ち着いて対応する力、相手の心に届く伝え方、相手を理解して受け止める力を、一つずつ身につけていきます。
特に力になれるのは、相手のせいにするだけでなく、自分も変わろうという気持ちがある方です。その気持ちさえあれば、今はまだ何をすればいいか分からなくても大丈夫です。
このままではいけないと感じているなら、それはすでに変わるための第一歩を踏み出しているということです。詳しい内容は、このページの下にあるご案内からご確認いただけます。その一歩を、私は全力で支えていきます。
9.「もう帰らない」と言われた人によくある質問
最後に、もう帰らないと言われた方から特によくいただく質問にお答えします。
9-1.Q.相手は本当にもう帰ってこないの?
2章でお伝えしたように、相手がその言葉を口にする背景には、気持ちを落ち着けたい、積み重なった不満を分かってほしいなど、さまざまな理由があります。言葉の強さほどには、気持ちが固まっていないことも少なくありません。
もちろん、何もしなくても自然に帰ってくるとは限りません。相手が戻ってくるかどうかは、これからのあなたの関わり方によって大きく変わります。
Aさんの事例のように、相手が家を出たところから、1年ほどかけて関係を取り戻したご夫婦は実際にいます。今の言葉だけで、あきらめる必要はありません。
9-2.Q.別居が長引くと離婚が認められやすくなる?
別居に至った経緯や期間、子供の状況など、さまざまな事情をふまえて判断されます。2-3でお伝えしたように、別居の原因をつくった側からの離婚の求めは、原則として認められにくいとされています。
また、相手が離婚を求めて家庭裁判所に夫婦関係調整調停(離婚)を申し立てたとしても、調停はあくまで話し合いの場です。あなたが同意しない限り、調停で離婚が成立することはありません。
大切なのは、別居の期間を恐れて焦ることではなく、別居している間にどう関わるかです。責めずにつながりを保ち、あなた自身が変わっていくことで、別居の期間を関係修復のための時間に変えることができます。
具体的な状況によって判断が変わるため、法的な見通しが心配な場合は、弁護士に相談して確認しておくと安心です。
9-3.Q.返事が来ないときはただ待つしかないの?
一つは、3章でお伝えしたように、相手の負担にならない間隔で、気づかいの言葉を送り続けることです。返事がなくても、あなたの変化は少しずつ相手に伝わっています。
もう一つは、6章でお伝えした5つのステップに取り組むことです。自分の心を整え、相手が離れた理由を振り返り、伝え方や家の空気を変えていく。この時間の積み重ねが、相手から返事が届いたときに、関係を前に進める力になります。
返事のない時間は、つらい空白ではなく、あなたが変わるための準備期間です。そう考えることで、待つ時間の意味は大きく変わります。
まとめ
パートナーからもう帰らないと言われても、それで夫婦関係が終わるわけではありません。この記事でお伝えしてきた大切なポイントを、最後に振り返っておきます。
- 言われた直後は引き止めず、責めない短いLINEで受け止める
- 相手が帰らないと言った理由を見極め、身の危険があれば安全を最優先にする
- 連絡は相手の負担にならない間隔を守り、NG行動を避ける
- 離婚届不受理申出や婚姻費用など、生活と立場を守る備えをしておく
- 相手の協力がなくても、自分一人から関係修復を始められる
もし今、何から始めればいいか迷っているなら、今夜は責めない短いLINEを一通だけ送り、今の気持ちを紙に書き出してみてください。勝手に離婚届を出される心配があるなら、離婚届不受理申出の手続きも早めに考えておくと安心です。
相手の気持ちを無理に変えることはできません。でも、あなた自身が変わることは、今日からでもできます。そして、あなたの変化は、時間をかけて必ず相手に伝わっていきます。
関係修復には1年から1年半ほどかかることが多く、途中で何度も不安になることがあると思います。それでも、一つずつ積み重ねていけば、相手が自分の意思で帰ってきてくれる日は、決して夢ではありません。
一人で続けるのがつらいときは、どうか一人で抱え込まずに頼ってください。あなたがもう一度、心から笑い合える夫婦に戻れるよう、私は全力でお手伝いしていきます。








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